本学では、コアファシリティ機構低温科学支援部門を中心に、貴重な資源であるヘリウムの地域リサイクルを進めています。2023年より、奈良工業高等専門学校(以下、奈良高専)とヘリウム地域リサイクル(奈良高専での液体ヘリウム寒剤利用に伴い生成されるヘリウムガスを回収し、回収ヘリウムガスを輸送し本学の液化設備を用いて再液化し、奈良高専に液体ヘリウムとして再供給)の取組を進めており、この度、再液化した液体ヘリウムを奈良高専に供給し、ヘリウムリサイクルの1サイクルを完遂しました。
このリサイクルの取組が、工業ガス専門誌であるガスレビュー誌に掲載されました。
ガスレビュー No. 1037号 (2024年8月1日発行)
[ヘリウム動向]
大阪大学、奈良工業高等専門学校のNMRボイルオフヘリウムガス再液化事業を開始(P.31)
ヘリウムは、原油や天然ガスの採掘の際の一緒に採取される貴重な天然資源です。日本では全く産出されず、全量を輸入に頼っています。このヘリウムを液化して生成させたものが液体ヘリウムです。沸点が-269℃であるため、超伝導を生起させるために必要な極低温状態を生み出す寒剤として広く利用されています。
例えば病院に設置されている核磁気共鳴イメージング装置(MRI)や、もうじき動き出すリニアモーターカー等において、強い磁場を生じさせるための超伝導マグネットには必須の寒剤です(ただし、リニアモーターカーでは、液体ヘリウムが不要な高温超伝導マグネットを試験中で、実用化の段階に入ったとのことです)。この他に、工業的な生産の場において、不活性な環境を作るための雰囲気ガスとして広く利用されています。
しかし、最近では新興国でのヘリウム需要の増加やウクライナ紛争によって、世界的に供給量が減少しています。そのため、価格が大幅に高騰しているだけでなく、日本においてはユーザーにヘリウムが届きにくく(手に入りにくく)なっています。
本学においては、実験等に用いられた液体ヘリウムは、学内各所に張り巡らされたヘリウムガス回収ラインを通してヘリウムガスとして殆どが回収され、本機構の低温科学支援部門が運用する再液化設備に送られ、液体ヘリウムに再液化されてユーザーに再供給されます。そのため、液体ヘリウムの利用を持続することが可能です。しかし、このようなヘリウム液化施設は、大規模な大学や研究機関にしか整備されておらず、民間ガス会社や民間会社においては全く整備されていません。
そのため、小中規模の大学や工業高等専門学校、研究機関において、実験の実施や分析機器の運用に必要な液体ヘリウムの入手が困難となっています。奈良高専も全く同じ状況であり、運用してきた400 MHz NMR装置の維持に必要な液体ヘリウムの購入や入手が困難な状況となっていました。
そこで、奈良高専-大阪公立大学-大阪大学の機器共用を介した地域連携である阪奈機器共用ネットワークの枠組を活かして、阪大のヘリウム液化設備を地域の設備として共用し活用しようということになりました。その取組が今回の「ヘリウム地域リサイクル」になります。詳細に関しては、以下の記事をご参照ください。
この地域ヘリウムリサイクルは、大和熔材株式会社の様々なご協力で実現することができました。この場をお借りしてご協力に感謝いたします。
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